人権作文の書き方

人権作文の書き方

中学生の夏休みの宿題としてよく出されるのが人権作文です。

法務省が毎年秋に実施している「全国中学生人権作文コンテスト」に向けての取り組みなので、地域を問わず全国的に夏休みの宿題として出されることでしょう。

人権作文というと、“人権”という言葉だけでちょっと小難しいイメージを抱いてしまい、ついつい敬遠してしまいがちです。

でも実は、日常の学校生活や社会生活、ニュースなどで経験したり見聞きしていることの中に、人権に関係している出来事はたくさんあります。思っているよりも、結構身近なテーマなのです。

とはいえ、人権って何? 何を書けばいいの? どうやって? と、頭の中は???だらけかもしれません。

人権作文の書き方を、基本的なところから少しずつひも解いていきましょう。

人権とは?

そもそも、人権って何でしょう。文字通り、人の権利(human rights)ですが、もう少し具体的に説明すると、

人間が人間らしく生きていく権利で、すべての人が生まれた時から平等に持っている権利です。

言い換えると

「すべての人が生命と自由を確保し、それぞれの幸福を追求する権利」

とも言えます。

世界のどこに生まれても、肌の色や目の色が何色でも、性別が何であれ、どんな人でも、誰にも命を驚かされることなく、自由に、そして幸せを求める権利があるのです。

小さい子どもに説明するならば「命を大切にすること」「みんなと仲良くすること」と言えるでしょう。

この権利は、「世界人権宣言」として1948年に国連(国際連合)によって採択されました。

人権が広く認知されている今の社会に生きていると人権は当たり前にあるもののようにも思えますが、実は、人権宣言が採択されてからまだ70年も経っていないんですね。

私たちは、自分以外の人を差別し、その人の権利や自由を奪うことはでません。

その権利や自由を奪ってしまうことが「人権侵害」であり、私たちの身近なところでも、日本国内のいろいろな場所でも、世界のあちこちでも、この人権侵害が起きているのです。

人権作文とは?

人権作文とはつまり、人権をテーマに自分が経験したことや、感じたこと、考えていることを自由に書いた作文です。

中学生は、これからの社会を担っていく世代。

その中学生に、人権作文を書くという作業を通して、人権の大切さを理解してもらうことが大きな目的の一つです。

そして、年に1回入賞作品をメディアを通して発表することで、多くの人にもあらためて人権に目を向けてもらい、人権意識を根付かせていこうという、社会的啓発の意味合いもあります。

法務省の募集要項には、作文の内容について

「日常の家庭生活、学校生活、グループ活動あるいは地域社会との関わりなどの中で得た体験を通じて、基本的人権の重要性、必要性について考えたことなどを題材としたものとする」

と書いてあります。

つまり、「いつもの生活中で、人権って大切だよね、人権って必要だね、など、人権について考えた体験や経験を題材にして書きましょう」ということです。

では、どんな問題やテーマが人権にかかわってくるのかを次で具体的に見ていきましょう。

人権作文にはどんなテーマ(ネタ)や問題がある?

いまの社会では、どんな人権問題があるでしょうか。

法務省の人権擁護局のWebサイトを参考に、中学生に身近なところから具体的に見ていきます。

それぞれの説明を参考に、ピン!とくるテーマ(ネタ)を見つけてみてください。ピン!とこなくても、なんか気になるな、というものもチェックしておくといいですよ。

◎テーマ(ネタ)の具体例

<いじめ>

今年に入ってからも、いじめを理由に自殺した中学生のニュースを目にしたことが少なからずあると思います。いじめは、子供の間だけでなく、大人の間でもあったりします。いじめそのものをテーマにすることはもちろん、自分はいじめに加わっていなかったとしても、「いじめを知っているのに、黙って見ていて何もしないことはどうなのか」という切り口もいいでしょう。

<インターネットによる人権侵害>

匿名による書き込みができてしまうインターネットでは、個人の名誉やプライバシーを簡単に侵害できてしまいます。学校裏サイトでの誹謗中傷や、LINEなどSNSを通じたトラブルなど、身近なところで思い当たることがいくつもあるはずです。いまの社会ならではのテーマだと言えます。

<親から子への人権侵害>

保護者からの虐待、暴力によって子供が心や身体に深い傷を受けたり、命が奪われたり。保護者の養育放棄で乳幼児が衰弱死したり、悲しいことに虐待のニュースは頻繁に目にします。もちろん、親からの暴力も人権侵害です。

<女性に対する人権侵害>

女性だから、という理由で職場や働き方が制限されたり、「女性は家にいるべき」という考えを押し付けられたり。言うまでもなく、セクシュアル・ハラスメントや性犯罪もこれにあたります。

<障害のある人への人権侵害>

体が不自由だったり、車椅子で生活している人にとっては、階段しかなかったり、スロープがなかったり、バリアフリー化されていない道路や施設、交通機関では行動範囲が制限されてしまいます。トイレに行きたくても、それすらままならないことだってあるでしょう。私たちがうっかり点字ブロックの上に止めてしまった自転車のために、途中で道をたどれなくなっている目の見えない方もいるかもしれません。

<外国人への人権侵害>

日本人でない、というだけでアパートの入居を拒否された、公衆浴場への入浴を拒否された、という話はいまだに聞きます。また、職場での待遇が日本人と違うということも少なくありません。

<高齢者に対する人権侵害>

高齢者の介護施設での虐待のニュースも、残念ながら耳にしたことがあると思います。振り込め詐欺や、詐欺商法など、記憶力や理解力の低下、認知症などにつけこんで高齢者をだますのは、やってはいけないことです。

<HIV感染者、ハンセン病患者などの感染症を持つ人への差別>

HIV感染やハンセン病などは、その病気に対する正しい知識や理解がないために、患者であるというだけで、患者やその家族がホテルなどへの宿泊や、施設の利用を拒否されたり、差別されたり。実際に自分が何かした、ではなくても、自分の心の中で思ってしまった少し差別的な考えなんかも、テーマとして取り上げていいでしょう。

<刑を終えて出所した人への人権侵害>

犯罪はもちろんいけません。でも、刑務所で刑期を終えて出所した人は、罪をつぐなって社会に復帰した人です。でも、「刑務所に入っていた人だから」と言って、就職できなかったり、住む家を見つけられなかったりということがあったりします。本人への差別や偏見だけでなく、家族への偏見もこれに含まれます。

<犯罪被害者への人権侵害>

犯罪の被害にあった人やその家族が、人権侵害をいろいろな形で受けることがあります。興味本意のうわさや中傷、プライバシーの侵害などが、メディアやインターネット上などで拡散されたりして再び被害を受ける、これを“二次被害”と呼びます。

<性同一性障害、性的嗜好のある人への差別>

体と心の性が一致していない性同一性障がいの人や、同じ性別の人を好きになる人たちは、そのせいで興味本意なうわさを立てられたり、中傷されることが少なくありません。性同一性障がいの人の場合は、どちらのトイレを使ったらいいのかも、人権に関する問題です。

<戦争における人権侵害>

戦争が起きている地域では、普通に暮らしている人たちが、子供も含めて殺されてしまったり、自分が住んでいる地域を追い出され、逃げ続けている人もいます。世界のほかの地域や国では、今も戦争によって多くの自由や生命、そして人権が奪われているのです。

人権作文に必要なのは具体的な体験

テーマ(ネタ)が決まったら、次はそのテーマ(ネタ)にもとづいた

「具体的な体験、経験」

を見つけます。

具体的な体験や経験がない作文は、とても薄っぺらな印象を与えてしまいます。

体験が入ることによって

「こういう経験をしたから、こう思っているのか」

「この経験が、この人をこうさせたんだね」

と、読んでいる人に理解してもらいやすくなるだけでなく、読んでいる人も、自分が体験したことのように感じることができるため、共感も得やすくなるのです。

「でもそんな経験なんて、ないし…」

と思っている人も、安心してください。体験はなにも、特別なものでなくていいのです。

誰もが日常で経験するような小さなこと。

これで十分なのです。

 

例えば・・・

  • 電車の中で杖をついたおじいさんが立っているのに、優先席に座っている人たちが誰も席を譲らない場面に遭遇した
  • 駐車場の車椅子の方専用駐車場に、車椅子じゃない人が駐車していた
  • 何か意見を言ったら「女のくせに」と言われた
  • 顔に火傷の跡が残っている人を見て、思わず顔を背けてしまった

等々、振り返ってみると思い出すことがあるかもしれません。

 

それでももし、「ない!」というのであれば、

  • 気になったテーマをインターネットで検索する
  • 誰かに話しを聞きにいく

——の2つにトライしてみましょう。

気になったテーマをインターネットで検索する

例えば、「虐待 子ども 死亡 ニュース」で検索すると、検索結果の上位に、いろいろなニュースが上がってきます。

「外国人 差別 ニュース」「戦争 子ども ニュース」

など、検索する時に「ニュース」というキーワードを加えると、比較的新しい出来事を見つけることができます。

自分に経験がなければ、検索で見つけたニュースを見て、自分が人権について感じたことをテーマにしていけばいいでしょう。

誰かに話しを聞きに行く

家の近くに、障害者や高齢者が通う施設などがあれば、そこに話しを聞きに行くのも一つの手です。

直接本人に話しを聞けなくても、施設の職員の方に「どんな差別や人権侵害があるのですか?」と聞いてみると、いろいろ教えてくれるはずです。

施設がなくても、自分の生活の範囲にいる外国人の方や、近所の高齢者など聞くのもいいですね。

意外と、じぶんのお母さんや、おじいちゃんおばあちゃんなども、いろいろな経験を持っているものです。

積極的に質問してみましょう。

誰かの経験を聞いて、じぶんが感じたこと。これも“体験談”です。

人権作文の基本的な書き方

テーマが決まり、体験も見つかったら、いよいよ文章にまとめましょう。

文章に必ず入れたい要素は、

  1. どんな体験をしたのか、どんなことを見たり聞いたりしたのか
  2. 1を通して、どんなことに気づき、何を思ったのか
  3. どんな社会、未来にしていきたいか、という提言

この3つです。

具体的に見ていきましょう。

1.どんな体験をしたのか、どんなことを見たり聞いたりしたのか

体験談は、読んでいる人がその場面を想像できるように、できるだけ臨場感を持たせるといいでしょう。

そのためのポイントは書き出しです。

<カギかっこで始める>

作文を誰かの言葉、カギかっこで書き始めると、読む人をグッと引きつけます。書こうとしている体験談に、誰かの言葉が関係しているのであれば、その言葉をカギかっこで引用して書き始めるといいでしょう。

<場面の描写で始める>

—冷たい雨が降っている朝だった。みんなが駅の中へと急ぐ中、車椅子の人が段差を登れずに立ち往生していた

—ある日、ネットに友達の写真がアップされていた。よく見ると……

<短い文で始める>

—私の祖父は、右手の指が1本少ない。

—アメリカから、転校生が来た。

書き出しが決まれば、その後はスムーズに体験したできごとを書いていけるはずです。

書き出しをちょっと、工夫してみましょう。

2.1を通して、どんなことに気づき、何を思ったのか

体験を書いたら、その経験を通して「自分」がどう思ったのか、何を感じたのか、そこをしっかりと書いていきます。

なぜなら、同じように体験したとしても、どう受け止めるかは人それぞれ違うからです。

大切なのは「自分が」どう思ったか。

「もし自分だったら…」と、体験したことを自分に引き寄せて考えてみるのも一つのやり方です。

人にどう思われるか、などと気にせずに、思ったことを堂々と、そして素直に書きましょう。

変に気取ったり、いい子ぶらないほうが読み手に伝わります。

3.どんな社会、未来にしていきたいか、という提言

そして結論には、社会への提言を書くといいでしょう。

これまでに書いてきた体験談も、自分が思ったことも、いずれも個人的な、もしくは限られた範囲の話です。

でもそこには、必ず普遍性があるはずです。

個人的な体験でも、それは障害者全体に通じる話だったり、立場さえ少し違えば、私たち誰もが経験し得ることだったりするはずです。

「こんな悲しい思いをする人がいなくなるような、◯◯な社会にしたい」

「二度と繰り返さないように、◯◯をするなど、自分にできるところから取り組んでいきたい」

など。

最後のまとめとなる部分なので、自分の言葉で、気持ちを込めて書き上げましょう。

400字詰め原稿用紙5枚以内、と聞くとすごく長いと感じると思いますが、大切なのは、その作文に込められたその人の“思い”です。

まずは、深く考えすぎずに、書き出してみましょう!

※参考ページ

法務省・全国中学生人権作文コンテスト

http://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken05_00016.html

第36回全国中学生人権作文コンテスト 入賞作文集

http://www.moj.go.jp/content/001216913.pdf

このサイトでは、人権作文の構成や人権作文の技術、全国中学生人権作文の人権作文の例文(リンク集)人権作文のテーマなどを掲載しています。人権作文の書き方のヒントにご利用ください。

いい人権作文とは

作家・井上ひさし氏は、いい文章について、「自分にしか書けないことを、どんな人でも読めるように書く」といっています。
これを人権作文についてあてはめてみると、「自分にしか書けないこと」=『あなたが体験したことや考えたこと』
「どんな人でも読めるように書く」=『学校の友達や先生たちに伝わるように分り易く書く』ことになります。

人権作文の構成

人権作文の基本的な構成は以下の通りになります。

(1)「人権」について、自分が 体験 したことや考えたことは何かについて書く。
(2)その体験から自分が何を得て、どんなところが 成長 したかについて書く。
(3)成長した結果、どのように 生活を改善 したいかを書く。

人権作文の型

文章は昔から「起承転結」の型がよいといわれています。人権作文の基本的な型は以下の通りになります。

(1)起 書き出し

この人権作文を書く「きっかけ」などを書きます。
上手に読者をひきつけるよう、工夫する必要があります。
長すぎるとインパクトが弱くなりますので、簡潔にまとめると効果的です。
また自分とテーマとの関わりを説明することも効果的です。

(2)承 具体的なエピソード

人権問題を経験した具体的なエピソードを書きます。
誰がどのようなことをしたか、目に見えるように具体的に書くと
読者と共感がうまれ、説得力がでます。

(3)転 成長

具体的なエピソードから、自分は何か考え、感じたのかを書き、
さらにその過程から自分がどのように成長したかを書きます。

(4)結 まとめ

全体のまとめとして、成長した結果、どのように考え方や生活を改善したいかを書きます。

人権作文のテーマ(ネタ)

現在の社会には以下のような様々な人権問題があります。自分が体験した人権問題を作文のテーマ(ネタ)としてしぼり書いていくことになります。

学年ごとの人権作文の書き方

全国中学生人権作文入賞作品リンク集

以下は、人権作文の入賞作品のリンク集になります。パクリにならないように参考程度にご確認ください。

 

 

 

人権問題を学習しよう

人権作文のテーマはこのサイトにあるようにさまざまありますが、まずは法務省の「マンガや冊子で学ぼう」がとても参考になります。
各テーマごとにマンガで分り易く解説しています。
http://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken04_00121.html